4.剣


この手に初めて剣を握ったのは、九つの頃だった。
重たくて、冷たくて、背筋にぞっと怖気が奔った。
怖くなって直ぐに取り落とした。
それから十の頃になり、もう一度剣を握る決心をした。
夢のためだった。迷いはなかったと思う。
けどやっぱり怖かった。
十一の頃。もう剣を握っても怖気は奔らなかった。
その代わりに勇気を手に入れた。
強くなった気になって、ぶんぶん空を斬った。
十二を超えて十三の頃。初めて切っ先を生き物に向けた。
相手は鼠だった。突き刺す前に逃げられた。
安心したけど、少し残念な気がした。
十四の頃。もう大丈夫だと思った。
自分は勇気を手に入れたから、何が起きても大丈夫だと思った。
ドラゴンさえも切り裂けると、確信していた。

十五になった。人を斬った。
真っ赤な真っ赤な血潮がどばぁっと噴出して。
僕の顔とか髪とか服とかを汚した。
血の匂いがいっぱいになった。
目の前の奴は人形みたいに倒れた。
切り裂いた所から内臓が見えてた。
目は引ん剥いてて、顔は怖がってた。
もう、動かなかった。

僕は夢のために剣を握った。
人を助けられる人間になりたかった。
大切な人を傷つける奴等を遠ざける勇気が欲しかった。
僕は勇気を手に入れた。剣と云う名の勇気だ。
それは簡単に手に入った。たかだか銀貨数枚だ。
けど。
怖くて堪らない。
僕の勇気は怖い勇気だ。
重くて冷たくて、怖い。
僕は勇気を手に入れたはずだった。
なのに。僕は。こんなに。
怖い。

十五の頃、僕は剣を取り落とした。
それから先、一度も握った事はない。
僕は剣が勇気でない事に気がついた。
そのために、僕は銀貨数枚と、人一人の命を代償とした。