「綺麗な月夜だ…」
「そうだな。だけど、お前の方がもっと綺麗だよ」
「そりゃどうも」

…あっさりと交わす。この女はいつもそうだ。
俺が竜に立ち向かう位の勇気で言った台詞を、あっさり交わしやがる。

「なぁ、」
「うん?」
「愛してる」
「そう」

ほらまた。俺がこの「あ」から始まる五文字を言うためにどれだけの勇気を振り絞ったか。
それをそんな素っ気無いニ文字で返すなんて。

「信じてないのか」
「ん?さぁゥv
「本当だよ。愛してる」
「ありがとう」

違うだろう。礼を言われたいわけではないんだ。判ってるくせに、何て女だ。
もっと他に言うべき事があるだろう?答えるべきことが。

「お前は?」
「何が」
「だから…」
「ん?」

聞けるかってんだ。「俺が好きか?」なんて。聞けるわけがないだろう。
判ってて、そうやって小首傾げてんだな。可愛らしく、小鳥みてぇに。

「だから…」
「…」
「…判れって」
「それは無理だ。私はお前じゃない」

何かが切れた。
俺は何をやっているんだ?
女一人に遊ばれて。
馬鹿馬鹿しい。

「だから
 …愛してるっていってんだろっ…」

簡単じゃないか。掴む肩はこんなに細い。倒す体はこんなに軽い。
簡単じゃないか。

「…そう…」

至近距離だ。愛する女の髪も瞳も唇も。
なのに手に入らないようだ。何でだ?
そんなに落ち着き払うなよ。
俺が負けみてぇじゃないか。

「何で…――」

重なった唇。否、重ねられた其れ。
卑怯だろ。

「愛してる…」

簡単に口に出すなよ。俺が苦労して出した五文字を。
卑怯だろ。
お前からなんて。
不意打ちだ。

「―――そう言って欲しかったんでしょ?」

嗚呼。
俺の負けだよ。